埼玉県 S様

築約150年の古民家が解体されることになり、ケヤキ材の梁が残されました。
この梁を使って何か記念に残るものを作ってほしいとご依頼頂きました。

墨書きには「慶應元年 丑十二月吉日」(1866年1月)と書かれています。
大政奉還(1867年11月)より前のことです。
歴史ロマンを感じますね。
なかなか立派な梁で、木の曲がりをいかして梁としてうまく利用していたようです。
斧や釿(ちょうな)ではつった跡など、手加工の様子が残されていました。
当時はほぼ人力だったと思います。
とても硬くて重い欅材を全て手作業で加工して組み上げていたことを考えると、気が遠くなってしまいます。
いったいどれだけの人員で、どれだけの日数をかけて建築していたのか想像も付きません。
本当に昔の職人の知恵、体力、技術の高さには尊敬するばかりです。
この梁が使われていた古民家に所縁のある5つの家族に記念品をわけるということでご相談いただき、椅子や木の小物を製作することとなりました。
まずは製材所に古材梁を持ち込み、板に製材してもらいました。
(再生ボタンを押すと動画が始まります。※音量注意)
伐採されてから150年以上経っているとはいえ、鋸が入ると欅のいい香りが漂ってきました。

製材された材木は、しばらく寝かせることにしました。
木材を加工するにあたっては、焦りは禁物です。
製品になってから割れや反りが生じて不具合を生じさせないため、しばらく環境になじませる必要がありました。
製作の過程の写真は撮っていなくて…
いきなり完成の写真です。
まずは椅子から





梁上に残されていた墨書き部分を丁寧に切出し、額装しました。
角にはチギリ(カンザシ)と呼ばれる薄板を2枚差し込み強度を高めています。

詳しくはこちら→木のブックエンド
割れや入皮部分には、リボン型の「千切り」(ちぎり)を埋め込んで、割れが広がらないようにしています。







詳しくはこちら→トライアングルクロック
正三角形の額縁に、特徴的な木目の部分を盤面にして納めました。
今回のご依頼は珍しい案件で、貴重な経験をさせていただきました。
古材表面の経年の表情をそのままいかす方法もありますが、今回は製材してから利用しました。
削れば新品と変わらないものができあがります。
経年の表情は何とも言えない味わいがあり、好みではありますが、製材して全く別のものに生まれ変わらすことができるのは、無垢材ならでは。
無垢材の利用価値を知らずに、廃棄されることが多いのは、非常に残念です。
わずかですが、そうならないよう、お手伝いができて良かったです。
現代に必要な形として、生まれ変わらせることができたんじゃないかと思います。
S様、この度はご依頼ありがとうございました。
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